日
28
2月
2010
『素材の味』
私は、下町生まれの下町育ちである。父親に言わせると、
「名古屋城下のはずれもはずれ、下足番の町だ」という
ことになる。両親共に、三代逆上っても名古屋、の由緒正
しき、名古屋っこ。名古屋人度に於いて「負けた!」と思
うのは大須育ちの人間だけ。さすが門前町は格が違う。
家庭をもってしばらくは下町暮らしから離れていたが、
今は夫と共に出戻っている。家を一歩出れば、昼間は1分
のうちに70%以上の確率で知り合いに会って、ご挨拶、m
ust! 昨年夏までは約90%だったが、向かいの凧屋の
おばあちゃんが、90何才かで大往生してから、確率は低く
なった。
うちのおばあちゃんは戦争未亡人で、布団を作って一男
二女を育てた。「やっとかめだなもー。どうしとりゃーた
ー」と、美しい名古屋弁を話す人だった。昔はデパガ(デ
パートガール)だった。うちの父は、中学生で喪主を勤め
たのが自慢の男で、会社では葬式部長と重宝され、「おぶ
ぅ、ちょー」と言っては、小成金の娘である母に白い眼で
見られていた。その祖母も父も既にない。残るのは、小成
金の娘であった母だけである。父と母のあまりにも世界が
違う組合せについては、いずれまた。
おばあちゃんは商売をしていたから、「買えるものは近
所で買う」「お互いさま」「世の中もちつもたれつ」が口
癖だった。そのせいだけではないが。
私は、生鮮食料品は近所の市場で買う。夕方に行くと、
欲しいものが手に入らないことも多々ある。「うちはいい
もんから売れてくからー」とは八百屋さんの弁で、必要な
ものがあったら、午後早めの時間までに行かなければなら
ない。肉屋さんも鶏肉屋さんも、デパ地下のそれよりぐん
と安くて、遜色なく美味い。乾物屋さんにいたっては、私
は密かに「セレクトショップ」と名付けている。入口入っ
てすぐは果物屋さんだが、買っても買わなくても挨拶をく
れる。たまには買わなきゃな、と思って買う果物にハズレ
がない。魚は市場の外の魚屋で買うが、顔を出すと「しば
らく顔見せんで何やっとった。忙しかったか」と言われる。
いつもかけている眼鏡を外していると「眼鏡かけとらん
でわからんが」と言われ、化粧をした顔で行くと「姉さん
、化粧しとるときれえだがあ。毎日、化粧しとりゃー」と
言われる。私もお返しに、「おばさん、他のお客さんには
丁寧な言葉使えるのに」と言ってみる。「そんなもん、客
商売だで、客によって変えるの当たり前だが」と言われる。
いずれにせよ、口ではぜーーーったいに勝てない。
この人たちを見ていると、「こういうのが普通だよなー」
と思う。一日12時間労働かもしれない。でも、けっこ
うな時間、お客さんとくっちゃべっている。寒い日はおで
ん種が早々に売り切れ、暑さでだるい日は寿司が早々には
ける。「考えることはみんな同じなんだなー」とわかる。
旬のハシリの野菜と目が合って、「さて、何にしようか」
と見つめ合う間もなく、何を作ればいいか教えてくれる。
「お母さんに食べさせてやりゃー」とも言われる。
大型スーパーでは、保存食品ほかを買い、調味料はデパ
地下ほかで買うが、ついでだからと、生鮮を買うこともあ
る。そんなとき、少しだけ「ごめんなさい」と思う。私が
買わなければ、市場はすたれてしまい、美味しい食材が近
場で手に入らなくなる! という危機感が常にある。
「あなたの好きな食べ物は何ですか?」と聞かれたとき、
私は胸を張って、こう答える。「素材の味がするもの」
と。
このサイトは地元商店街とリンクしていると聞きました。
ビバ!商店街! 魚は切り身で泳ぎ、野菜は年中同じも
のがある、という大きな勘違いを次代を担う子どもたちが
しないためにも。
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