27

4月

2010

『昭和おとぎ話』

 私の父と母は、かたや下町の母子家庭、かたや小成金の
長女という組合せ。父が戦争で父親を失った家庭で苦労し
て育ち、母が朝鮮戦争特需で成り上がった家庭で苦労知ら
ずで育ったというのも興味深い。

[出会い編]
 ある日、母は女友だちと小旅行にでかけた。名古屋駅の
ホームで親戚のおじさまに会った。父は、一仕事終えて、
名古屋駅のホームに降り立った。母の親戚のおじさまは、
父の上司であった。父と母は、そこで知り合う。
 そして、父は、なぜか、そのまま、「写真撮らせてくだ
さい」と行って、母と友人の小旅行にくっついていったの
である。なぜか、というまでもなく、完璧な一目惚れだっ
たのだろう。
 母曰く、「変な人だなあ、と思ったわよ。初対面で、人
の旅行にくっついてくる?」
[初めてのデート編]
 母曰く、「何度も連絡があるから、仕方なく、約束をし
たけど、行きたくなかったから、何時間も遅れて約束の場
所に行ったの。そしたら、お父さんたら、なんて言ったと
思う? 『早かったですね。まだ、新聞を全部読み終えて
いませんよ』」
[結婚が決まって]
 母曰く、「おじいちゃんたら、『お前はどこにだって嫁
に行けるのに、サラリーマンなんて貧乏人と結婚するなん
て』と言って、結婚式にも出てくれなかったのよ」
[新婚時代]
 母曰く、「お父さんたら、トーストに、しぐれとか、海
苔とかを載っけて食べるのよ。変な人だなあ、と思ってい
たら、一週間ぐらいしてからかな? 『朝はご飯にしてく
ださい』と言ったの。早くそう言えばいいのに(笑)」
[新婚時代引き続き]
 母曰く、「最初は苦労したわね。だって、八百屋さんと
かお魚やさんとか、御用聞きが来るんじゃなくて、こっち
から行かなきゃならないのよ。最初はお店に行っても声が
かけられなかったから、じーっと立って待っててね、お店
の人が『奥さん、なんにします?』って言ってくれるまで、
ずーっと立って待ってた」
 そして、「お父さんのお給料ったら、私の一ヶ月分のお
小遣いにも満たないのよ。そんなもの、一週間で使ってし
まうでしょう? おばあちゃんがお小遣いをくれなかった
ら、とてもやっていけなかった」
 さて。ここまで、母しか語らなかったことに、お気づき
だろうか。そして、いよいよ、父の登場である。
[晩年]
 父曰く、「お父さんは自分の選んだ人だから我慢できる
けど、お前たち子どもには本当に可哀相なことをした」
 ま。でも、あなたたちがいて、私がいる。私は、とりあ
えず自分に満足しているので、感謝しています。