水
23
6月
2010
『アングラ少女製造雑誌』
過日、デザイン関係の友人が、MIgというフリー雑誌
をくれた。『女子力』というのだろうか、コスプレする女
子アーティスト集団の活動や、小物作りのユニットなどが
紹介されていた。
その方面には弱いので、正確に記述する言葉を持たない
のだが、自らをアイドルとしてコスプレする集団の写真を
見て、「女性の地位向上のために一生を捧げた先達たちが、
これ(あえて言うなら、自らの性をアートとして商品化す
る)を見たら、どんな感慨を抱くであろうか」と、その中
間の世代に属する私は、いささか複雑な気分になった。
だが、友人が、「彼女のデザインもいいんですよ」と頁
を開いてくれた作品を見て、私は懐かしい気持ちになった。
「ねえ、あなたって寺山修司の洗礼を受けた?」「いえ」
「昔、『ペーパームーン』って、アングラ少女製造器みた
いな雑誌があってね」と、私は言った。
『ペーパームーン』は、私が中学校一年のときに創刊さ
れた大判のメルヘン雑誌だ。寺山修司が編集責任者の、メ
ルヘンはメルヘンでも暗黒のそれだった。
寺山修司の説明が要るだろう。詩人で作家で覗きが趣味
で、母親に溺愛され母親を作品の中で殺し続けた東北人だ。
『天井桟敷』という劇団を主宰した。『書を捨てよ、街へ
出よう』という本を書いたときには、その言葉に従って、
家出人が続出した。唐十郎の『状況劇場』とどちらが先だ
ったろうか。いずれも、アングラ(アンダーグラウンド)
の強力な牽引者であった。路上で抜き打ちのように芝居を
したのは『天井桟敷』? 資金稼ぎのために金粉ショーで
どさ回りをしたのは『状況劇場』? 『状況劇場』の公演
祝いに寺山が葬式の花輪を送り、劇団員同士の大立ち回り
に発展したということもあったらしい。寺山は40代で病死
し、唐は生きている。寺山の作品は映画として何本か残っ
ている。若き日の唐の姿は、NHK大河ドラマ『黄金の日
々』で見ることができる(若き日の状況劇場の面々が重要
な役で出ている)。
『ペーパームーン』は、退廃と虚無と反抗の味がうっす
らとする甘いお菓子だった。イラストは宇野亜喜良が多く
描いていて、マザーグースや四谷シモンの人形も載ってい
た。連載小説は双子のゲイが経営する喫茶店の話。特集は
スターウォーズだったり、萩尾望都だったり。読者投稿欄
では、ゴスロリ系ファッションあり、『密通チェス』とい
うチェス盤の紹介あり。「少女のためのポルノ鑑賞」なん
てイベントもあった気がする。
ずいぶん大人になって、この流れを汲む月食歌劇団の公
演を観に行き、紹介してくれる人があって主宰の高取英さ
んと話をした。「『ペーパームーン』読んでました」と言
うと、「あぁ、そういう人、この業界に多いですよ」とあ
っさり言われた。なぜ? 私は高取さん以前に、この雑誌
の名前を知っている人にすら会ったことがなかったのに?
業界ってどの業界? ちなみにこのときの演目は『家畜人
ヤプー』。ほんと、業界って、どこまでの業界なんだろう。
今でこそ、添乗に行けば、「感じのいい添乗員さん」と
言われ、ご近所では「できた娘さん」と言われる私だが、
13才で寺山の洗礼を受け、『草迷宮』や『チゴイネルワイ
ゼン』を映画館の暗がりで見つめていた私がかつていたの
だ。私の思考の道具は、寺山が編んだ数々の言葉だった。
たまには、そんなことを思い出すのも悪くない。
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